漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~



 「どういう事だ?!何で勝手に舞台に出ると決めた?!」
 「落ち着いて。ちゃんと話すから」


 部屋に入ると同時に怒り口調でそういう千絃に響はベットに座るように促すと、彼は大きくため息をついた後に、ベットに腰を下ろした。響も彼のすぐ横に座り、彼を見つめる。
 いつもよりも視線が鋭い。相当、怒っているのだとわかり、響は少し怖さを感じてしまう。けれど、これは自分が原因なのだ。
 彼にもわかって貰おうと、先ほどの会話を簡単に話す事にした。

 しかし、説明すればするほどに、千絃の顔は厳しくなっていった。


 「剣道以外で夢中になったのがこのゲームのモーションキャプチャーなの。だから、絶対に成功させたいし、いろんな人に知ってもらいたいって思ったの」
 「だから、やりたくもない仕事をやるのか」
 「やってみないとわからないわ」
 「………やりたくないっていうのは否定しないんだな」
 「それは…………」


 やはり千絃には全てお見通しだったのだろう。
 響はこの仕事は少し荷が重いと思っていた。響は根っからのアスリートだ。モーションキャプチャーで初めて演技というものをしたが、これも演技にはほど遠いだろう。演技とは体の動きだけではなく、声や視線、表情などが重要になってくる。響は体の動きしか演じていないのだ。
 しかし、演劇となると話は違う。
 全身で表現しなければいけないのだ。
 演劇初心者の響が受けるような仕事ではないと思っていた。それに、自分のやりたいことは何だろう。そう考えてみた時に、この仕事はしっくりとこなかったのだ。

 けれど、何事も経験という事もある。挑戦してみて損はないはずだとも思えた。
 そして、何より、ゲームの宣伝になるのならば、と思ったのだ。

 けれど、千絃に問われると、何も言い返せなくなってしまう。迷っているのに受けるのは失礼だったかもしれない、とさえ思えてしまう。
 言葉に詰まる響を見て、千絃は大きいため息をついた。



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