漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
「………もう決めた事なんだな」
「うん。和歌さんにそう伝えた」
「じゃあ、やるしかないな」
「うん」
「………でも、無理をするな。条件が悪かったり、重要すぎる役だったら降りても構わないんだ」
「………うん。出来るだけ頑張るよ」
響はにっこりと笑って返事をする。
が、ここまで話をしても彼の表情は変わらなかった。まだ不満があるようなのだ。
「………千絃?」
「おまえ、あいつに頭触られてただろ?」
「え、あぁ………和歌さんは私の事、子ども扱いしすぎだよね……」
「他には。触られたとこないだろうな?」
「う、うん……ないけど………って、何で髪をくしゃくしゃにするの!?」
「何かムカつくから」
「何それ………!」
千絃は響の頭に手を乗せると、乱暴にぐしゃぐしゃの撫で始めたのだ。お陰で髪はボサボサになってしまう。けれど、彼はしばらくの間それを続けていたのだ。
「ったく、本当にむかつく奴だな」
「………あ、もしかして、千絃………嫉妬してくれたの?」
「…………」
「ふふふ………嬉しいなー」
「何にも言ってないだろっ!」
耳まで真っ赤になった千絃は、プイッと響とは反対側の方を向いてしまう。そんな愛しい恋人を見ていると、心が軽くなる気がした。
自分には心配してくれる人がいる。応援してくれる人がいる。それが何よりも力になるのだ。
しばらくの間、千絃はこちらを見てくれなかったけれど、響の顔は自然と笑顔に変わっていた。