漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
関から和歌が会社に訪れる時間を聞き、千弦は自ら出迎え役を買って出たのだ。そして、地下にある駐車場で待ち伏せしたのだ。ここは関係者以外の駐車は禁止されている。そのため、勤務時間に訪れる人間はほとんどいないのだ。
そのため、ここは密会には丁度いい場所なのだ。
千弦は和歌に訪ねたいことが山ほどあった。
「単刀直入に聞く。響が舞台に出るという情報をリークしたのはおまえ自身だな」
「………なるほど。そんな考えをお持ちだったのですか。そんな事をして私に何の得が……」
「あるだろ?公表してしまえば、響が断りにくくなる。そして、ゲーム業界に進出したばかりで話題になっていた響を起用したことで、更に注目になっただろうな。響を起用したのは話題性のためだろ?まぁ、知り合いだから頼みやすいだろうし…………響にとっては知り合いだからこそ断りにくいわけだ」
「………その考えは否定はしません。話題作りにもなると思ったのは事実です」
和歌は降参という風に小さく手を挙げて、小さく息を吐いた。
響を宣伝目的で起用したとあっさりと認めたのだ。それだけで、千弦は頭に血が上ってきたのを感じた。ここが会社じゃなければ、1発殴っていたかもしれない。
響は悩んで決めたというのに、これが理由だと知ったらどんな気持ちに、表情になってしまうだろうか。想像するだけで、胸が苦しくなる。
「けれど、本当の理由もあります」
「………本当の理由………?」
本音を吐かせたはずなのに、和歌は何故か余裕そうな笑みを浮かべて、ゆったりと腕を組んだ。和服ならではの袖の中に腕を入れる組方が、様になっているのが癪に触る。
柔和な笑みから出てきた言葉は、千弦の言葉を止めるのには十分なものだった。
「私は漣さんに惚れていますから。だから、共に仕事をしたいと思ったのです」