漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
響が病気なのは昔から知っていた。けれど、どこまで進行していたのかは知らなかったし、引退する前に相談される事などあるはずがなかった。しばらくの間、会うことも連絡もとっていなかったのだから。
けれど、和歌には相談していたのだろうか。
そう思うだけで、千絃は悔しくて仕方がなかった。
自分の考えで勝手に響から離れたのだから、怒る権利などないはずだ。
だが、その気持ちを抑えられる事も出来ずに、行き場のない視線を庭に咲く花に向けて睨むしか出来なかった。
「だが、彼女はあなたが大切なようなので、羨ましいです。けれど………、私も諦めるつもりはありません。私もずっと彼女を見てきたのですから」
そう言うと、和歌は小さく頭を下げてから、千絃の隣を通り抜けてビルの中へと去っていった。
「………俺があいつから離れたからだな」
千絃は髪をくしゃくしゃとかきながら、また壁に寄りかかった。そして、大きくため息をつくと、暗い地下の天井を見た。
千絃は、フッと昔よく2人で見た、河川敷での夕暮れをまた見たいなと思った。