漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
だが、千絃に徹底的に避けられてしまい、なかなか2人きりの時間がとれなかった。仕事も忙しくなり、お互いの帰る時間が違ってしまう事が多くなったのも要因の1つだろう。
けれど、連絡をしてもすぐには返信が来なかったり、響が休憩の時間になると千絃は席を外していたりと、会うことも少なくなっていった。
そして、千絃に相談をする事が出来ないまま、舞台のスタッフとの顔合わせや打ち合わせ、読み合わせなどがはじまってしまったのだった。
仕事が終わってからの合流だったため、響は途中からの参加が多かった。
けれど、舞台役者やスタッフはとてもアットホームな雰囲気で、あっという間に現場に慣れる事が出来た。
主役である春は、実力がありながらも高飛車になる事もない、物腰の柔らかな男性だった。響より年下だったが、初めての舞台だという響にいろいろと教えてくれた。
役柄は響が春が演じる剣士を殺そうとする暗殺者という関係だった。
「本当の剣の使い手に『今宵、そのお命頂戴します』なんて言われたら、身がすくんじゃいそうですよ」
「そんな!春さんの真剣な瞳と雰囲気に私こそ圧倒されてますよ」
「本当ですかー?でも、役者としてそう言って貰えるのは嬉しいですね」
響はその日も皆と、和気あいあいとした雰囲気で稽古に参加していた。
モーションキャプチャーの仕事が終わった後、夜遅くになってしまうが、響にとってとても大切な時間になっていた。
千絃の事を考えなくてもいい時間でもあった。