漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
「そんな……和歌さんが私の事を?………気づくはずないですよ……」
「それは、君が僕に好意を持っていないからだよ」
「そ、それは………。私には恋人がいますし………」
「そうですね」
響の答えに、微笑みながら和歌は響の方へ手を伸ばした。そして、頬についた髪を優しく指で払いながら、言葉を続ける。
「君がここに越してきて、中庭で頑張って稽古をするのを見るのが楽しみになった。どんなに辛くても、悲しいことがあっても、君は我慢して凛とした雰囲気のまま剣を振っていた。それがとても強くて……でも少し儚さもあって。とても魅力的だと思っていたんです。僕は君を見守る事しか出来ていなかったけれど、助けられたらって思っていたよ。漣さんが今辛いというのなら、寂しい思いをしているのなら、僕を選んで欲しい。君を泣かせるような事はしないと約束します」
「………和歌さん」
和歌はゆっくりとした口調のままそう言うと、1度響の頬に触れた後、その手を下げていき響が手にしていた彼の眼鏡を受け取った。
「眼鏡、ありがとうございます。このまま寝てしまってはいつか壊してしまいますね。………今夜は稽古場に顔を出します。おやすみなさい」
「……おやすみなさい」
どうしても何も言えなかったのか。
大切な恋人がいるのにキスをされてしまったのだ。悲しくなるか、怒るか……響は和歌に自分の気持ちをぶつけてもよかったはずだ。
しかし、出来なかった。
「何で和歌さんが泣きそうな顔をするの……?」
彼の笑みの中には、切なさと少し泣きそうな潤んだ瞳があり、響はどうしても強く言えなく、ゆっくりと閉まる窓を見送るだけだった。