漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~



 そこまで話をしてくれた春だったが、スタッフに「そろそろスタンバイしてください!」も呼ばれてしまった。優しく微笑んでいた春は「はい!」と引き締まった顔になる。きっと役へのスイッチが入ったのだろう。一気に剣士の顔つきになっていた。


 「春さん、ありがとう。頑張りますね」
 「殺しに来るの楽しみにしてます」
 「………ありがとう」


 彼の冗談にフッと笑みがこぼれる。
 すると、春も安心したようで小走りでステージの方へ駆けていった。



 「その日の最高の演技………か。よしっ!頑張れる!」


 春の言葉は響を大きく後押ししてくれるものだった。
 今、考えることは千絃の事ではない。春を殺しにいく暗殺者になる事。千絃が見に来てくれた時に恥ずかしくない演技をすればいい、そう思うようにしたのだ。


 響は出番までステージ袖に座り、舞台の緊張感を味わろうと思った。
 音楽が流れ幕が上がる。


 響の挑戦が今、この瞬間から始まったのだ。









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