漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
車内では相変わらず、あまり言葉数は少ない。けれど、千絃の車に乗るのも2人きりになるのも最後だろうな、と思うと彼に伝えておかなければいけない事があった。
響はゲームの仕事は断るつもりだった。今度会社に行くとしても一人で行こうと思っていた。
千絃との時間は懐かしく、嬉しくなる事もあったけれど同時に辛さもあった。「どうして?」と聞きたくなったり、問いつめたくなってしまうのだ。
けれど、それは今さらの話。雰囲気の悪いまま離れるよりはにこやかにまたお別れしたいなと思った。
「ねぇ……千絃。仕事、紹介してくれてありがとう」
「………何だよ。嫌がってたじゃないか」
「確かに無理矢理だったし、驚いたけど。………でも、知らない世界を知れて楽しかった。剣舞も踊れたし。剣の道しか知らない私だけど、それでも喜んで褒めてくれる人がいるんだーって思えて嬉しかった。だから、ありがとう」
「あぁ………」
運転している千絃にそう感謝の気持ちを伝えたのは、彼を直視しなくて済むから。卑怯だなと思いつつも、それならば彼に笑顔で話せると思ったのだ。彼に微笑みかけながらそう言うと、千絃はちらりとこちらをみて、ぶっきらぼうに返事をする。少し照れているのだろうか。彼らしいなと思ってしまう。