漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
14話「不器用な片想い」
14話「不器用な片想い」
車に乗り込むと、千絃は車を発車させずに響の方を見つめていた。
響はどうしていいのかわからずに、彼を見返していると、千絃の手が伸びてきた。
そして、響の左目にそっと手を当てた。そこが傷があるとわかっているように、優しく労るような手つきだった。
「…………目、見えなくなってるのか?」
やはりこの人は気づいていたのだ。
話していたから当然かもしれないが、それでも会う前から薄々気づいていたのだろう。
響は苦笑しながら、小さく頷いた。
「うん。左目がね。少しずつ見えない部分が増えてるの」
「今日はそれが原因か?」
「そう。見えない部分は音とか気配で何とか感じていたんだけど、最後のは気づかなかったわ………」
「緑内障………」
最後の彼の言葉は自分のために溢した言葉なのか、とても小さなものだった。
緑内障。眼圧が異常に高くなる病気で、少しずつ視力が弱くなり、見える視界が狭くなっていくのだ。それを学生の頃に発症し、響は治療していた。が、少し前に見えない部分が広くなり、剣道の稽古や試合で、支障が出始めたのだ。そのため、響は選手生命を終えることに決めた。
そして、今回の怪我もそれが原因だった。いつもは気配や音などで察知していたが、「そろそろ終わりだろう」という油断から完璧に警戒を怠っていたのだ。そのため、見えなくなった部分にスタッフが居ると思わなかったのだ。あの男性に悪いことをしてしまったと、響は反省していた。