漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~





 「入って」
 「………うん。お邪魔します」
 「そんなに緊張しなくていい」


 体を固くしながら挨拶をすると、千絃はクククッと楽しそうに笑った。
 千絃の部屋は男性らしくシルバーの家具で統一されていた。リビングにさゲーム雑誌やゲーム機が置いてあったり、様々なイラストも乱雑に置いてあった。けれど、それ以外はとても綺麗に整理されていた。


 「ソファに座って。飲み物と準備する」
 「あ、私も手伝うよ」
 「怪我人は座ってろ」
 「………千絃も怪我人じゃない」


 呟いた響の言葉は無視され、千絃はさっさとキッチンに向かってしまう。響は苦笑しながらも、彼の心遣いに感謝をしてソファに座った。
 肌触りのいい灰色のカバーがついたソファに座る。目の前には大きなテレビの画面と本棚があった。そこに目を向けると、本棚にはアニメやゲームのものだけではなく、武道書もあった。ゲームに関係しているのかもしれないが、きっとそれだけではないのだと響は思った。
 千絃は本当に剣道が大好きだったのだから。



 それなのに、彼は剣道から離れている。
 その理由はきっと響との約束を破った訳にも繋がるのではないか。響はそう考えた。
 温めたテイクアウトの料理とお茶を持って来た千絃を見つめる。

 やはり、今聞いておかなければいけない。



 ずっと悲しい思いをした原因が彼との約束でもある事を。
 恋人になったのならば特に知っておかなければいけないのだ。千絃が自分から離れていってしまった事で、とても大きな傷を負っていたのだから。


 彼が準備したのは紅茶だろうか。少し甘い香りがするお茶だった。カップから立つ湯気を見つめ、少し気持ちを落ち着けた後にゆっくりと彼に話を掛けた。




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