漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~
明らかにいつもの響ではなかった。
千絃はすぐにでも響を追いかけたかったけれど、剣道の名門高校である部活を2人で無断欠席するわけにはいかなかった。主将である先輩にわけを話してから何とか休みの承諾を得ると、すぐに響の元へと向かった。
彼女が向かった場所などすぐにわかる。
響の事を、誰よりも知っているのは自分なのだから。
急いでその場所に向かうが、その頃には天気が悪くなっていた。先ほどまではかろうじて太陽の光が見られたけれど、今では空一面厚い雲で覆われていた。そして、千絃が響が居るであろう場所に着く直前にはポツポツと雨が降り始めたのだ。
息を整えながらその場所へと進むと、見慣れた制服姿の響が居た。
「ひび…………」
「…………」
響が居たのは河川敷にある高架下だった。コンクリートの壁に背を預けて膝を立てて座っていた。顔を隠すように俯き、腕は膝を抱えるようにして小さくなっている。
ここは、よく稽古の帰りに2人でアイスを食べたり反省会をしたりする場所だった。
響が泣いている。
顔を見なくてもそんな事はわかった。
「何かあったよな。話し聞かせて」
「…………」
「俺になら話せるだろ?」
千絃は響の目の前に座り込み、彼女と目線を合わせるようにして響が顔を上げるのを待った。しばらくの間は強くなってきた雨音だけが聞こえた。
けれど、「千絃………」と弱々しい声が聞こえた。
響はようやく顔を上げる。目を真っ赤にし、目の回りや頬には沢山の涙が溢れていた。