漣響は強くない ~俺様幼馴染みと忘れられた約束~




 「俺がこんなとろんとした顔にさせたってのが嬉しいんだよ」
 「でも、千絃だって見たことない顔してる」
 「え………」
 「男の人の顔、してるよ。私を欲してくれてる目だし、少し頬が赤い。………こんな表情見たことないよ」
 「………いつでも俺はおまえが欲しかった。けど、必死に我慢してたんだ。だから、自分のものになった途端に我慢の限界だった。体が痛い時に悪かったな……」
 「………後、少しぐらいなら大丈夫………」



 恥ずかしさよりも千絃と近くに居たい気持ちが勝り、おそるおそるそう言うと、千絃は少し驚いた表情を見せて後、ハーッとため息をついた。それは呆れているというよりは、少し喜んでいるように見えて、響も視線を逸らしてしまう。
 自分は彼に愛されているのだな。そう思えたのだ。


 「………おまえ、俺を煽って我慢出来るのか試してるのか?」
 「………そんな事は……」
 「でも、今日はキスだけって決めたんだ。お互いに怪我をしたんだからな」
 「うん。……そうだね」


 そう返事をすると、彼は目を細めて愛おしそうに響を見下ろして、頬に触れてくる。


 「だから、しばらくキスだけするか」
 「…………うん」


 きっと、今の自分はとっても喜んだ表情をしているはずだ。そんなのは見なくてもわかる。
 心からそれを望んでいたのだから。
 響は微笑みながら、ゆっくりと目を閉じた。最後に見た彼の表情も響と同じだった事に、嬉しさを感じながら、千絃の唇の感覚に酔いしれたのだった。






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