何度忘れても、きみの春はここにある。
 心からお礼を言うと、「いちいちお礼言うな」と怒られてしまった。
 私は受付でもらったマップを必死に睨み、村主さんが教えてくれた可能性のある場所を順番に目指していくことにした。
 しかし、歩けど歩けど人ばかりで……。
 まったく会えそうな気配がない。
 ましてや、大学生は毎日講義があるわけじゃないから、偶然会える可能性なんてすごく低い。
 村主さんは、瀬名先輩と前一緒に行動していた、菅原さんや岡部さんにも連絡を取ってくれたが、ふたりともあの放火事件以来、連絡が取れないという。
 村主さんをこれ以上付き合えわせることが申し訳なくなってきた私は、ある提案をした。
「村主さん、ありがとう。たくさん歩いて疲れただろうし、いったん外のカフェで休まない?」
「たしかに。一回気分転換しよっか」
「待って、お店今検索してみる」
「東京なんだから調べなくたって、テキトーに歩いてたら見つかるよ」
 村主さんはそう笑い飛ばして、疲れた様子を顔に浮かべることもなく、歩き始める。
 私なその背中を見ながら、何度もお礼を唱えた。
 こんなに親身になってくれる友達ができるなんて、少し前までは思ってもみなかった。
 私は村主さんの気持ちにも答えられるようにしっかりせねばと、両頬をパシンと手で叩き、一度大学から出ることにした。

 村主さんが言ったとおり、歩くだけで何件もカフェが見つかったので、一番大学に近いカフェに入った。
 窓際のボックス席に案内され、ハイバックのソファに腰かけると、ずいぶん体が疲れていたことを実感する。
 村主さんはアイスコーヒーを、私はアイスティーを注文し、私たちはお互いに目を合わせて、ふぅ、と深いため息をついてから、少し笑った。
「瀬名先輩、なんかちゃんと講義受けてるのかも怪しくなってきたよね」
 村主さんの言葉に、私も思わず頷いてしまう。
「まあ、今日見つからなかったら、琴音も一緒に洋服とか見て帰ろうよ」
「え……、いいの?」
「いいのって、どういうこと」
「いや、私、友達と洋服選ぶのなんてはじめてで……うれしい」
 そう素直にこぼすと、村主さんはまた呆れたような顔をして、「似合うの選んであげる」と宣言してくれた。
 瀬名先輩と会える確率は、思っていたよりも少ないことに気づいてしまった。
 まだ、諦めたくない。
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