何度忘れても、きみの春はここにある。
最終章

歩んでいく道


side瀬名類

『ずっと、類に確認したいことがあるんだけど、今度会おうよ』
 岡部から、そんなメッセージが突然届いた。
 俺は今、就職説明会の帰りに、スーツ姿で研究室に立ち寄り、エントリーシートを記入しているところだった。
 岡部と菅原と遊んだ日々は、たぶんお互いに楽だったけど、あまりいい印象はない。
 高校生特有の尖り方をしていただけなのだろうけど、岡部はとくにあのときいろんなことに攻撃的だった。
 菅原からは、すっかり落ち着いてるよ、と聞いていたけれど、それは本当だろうか。
 スマホを見たままぼうっとしていると、同じ研究室の志賀(しが)が話しかけてきた。
「瀬名君、また女の子に誘われてるの」
「志賀じゃないんだから、遊ばねぇよ」
「俺は就活終わるまで真面目人間になるって決めたから、言いがかりやめてくれる?」
 黒髪を方耳にかけて、前髪をかきあげ、黒縁眼鏡の須賀は、俺のことを不満そうな顔で睨みつけている。
 志賀は勝手に俺からスマホを奪い取ると、「さすがイケメンは就活中の地味スタイルでもモテるな」と茶化してくる。
「お前が勝手にミスターコン推薦したこと、一生恨んでやるから楽しみにしとけよ」
「怖っ、なんでそんな顔すんのー。瀬名君が一番嫌がりそうなことしてあげようと思っただけなのにー。ていうか、類のスーツ姿で同じ研究室の後輩が全然集中できてないの気づいてる?」
「知るか」
 今度は俺が志賀を睨みつけ、強めに肘打ちをしてやった。
 こいつは、頭がいいくせにわざとお調子者を演じていて、なかなか癖が強い人間だ。
 なんでこんなに絡んでくるのかは不明だが、こいつが近くにいるおかげで他の人が寄ってこないので虫よけとしてはちょうどいい。
「でも、瀬名君さ、この人ちゃんと話したいことあるっぽいよね。下心なしで」
「……確認したいことって、見当もつかねぇな」
 就活関連で、何か情報交換がしたいとかだろうか。
 そういえば、岡部も同じ文学部と言っていたような気がする。
「この子、高校時代からの友達とか?」
「……まあ、高校のクラスメイト」
「へぇ。瀬名君、ちゃんと友達いたんだね。高校時代のこと聞くとすごく怒るから、ずっと孤独な暗黒期なのかと思ってたよ」
 志賀の発言を無視しながら、俺は再びエントリーシートと向き合う。
 高校時代のことを聞かれても、別に怒っているわけじゃない。
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