何度忘れても、きみの春はここにある。
 逃げるって……いったい何から?
「被害者の女の子が、ずっと犯人探しを呼び掛けていたお蔭だそうだ」
「ああ、たしか、言ってたな……。俺以外にもうひとり被害者がいるって……」
「とにかく、一度帰ってきなさい。ずっと張りつめた気持ちのままだと、いつか電池が切れるぞ」
 祖父はそう言って、強引に電話を切ってしまった。
 張りつめた気持ちでいるつもりはまったくないし、俺は今十分自由な生活をしていると思っている。
 余計な交流を断ち切って、特別な人間を作らないように……、今までどおり生きているというのに。
 どうして、祖父の目にはそんなに心配されるように映っているのか。
 俺は納得できないまま、真っ黒なスマホの画面を見つめていた。
 実家に帰ったら、コトネについて何か思い出すきっかけがあるかもしれない。
 今このタイミングで起こったこと、すべてに意味があると思い込んで、俺は数日間だけ実家に帰ることにした。
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