何度忘れても、きみの春はここにある。
「どうして……」
 どうして、どうして、どうして、思い出せなかった。
 あんなに誓ったのに。
 昨日の自分と、今日の自分を繋げて、琴音のそばにいるんだと。
 それが、あんな火ひとつで、すべて消え飛んでしまうなんて。
 ……結局俺は、母親の呪いから、逃げることができていなかったんだ。
 あの日、命からがら家を飛び出て、燃え盛る火をひとりでただただ見つめることしかできなかった自分のままだ。
 琴音に出会うまで、ずっと、何もない雪原に立っているかのような人生だった。
 歩いて、足跡を残そうとしても、どんどん雪が降り積もっていって、あっという間に俺の歩いた軌跡なんか消えていく。
 だからずっと、ここにひとりでいよう。そんなふうに思って生きていた。
 何も残せないのなら、何もせずに、何も考えずに、ひとりで生きていこう、と……。
 そんな薄暗い灰色の景色の中、突然現れた琴音は、まるで"春"そのもだった。
 空に舞う花びらのように、道端に咲く勿忘草のように、等しく降り注ぐ太陽の光のように。

 ――想うだけで、心が温かくなる場所は、きみが持っている。
 きみがいるところに、光が当たる。

「会いたい……」
 ふと、心の中から言葉があふれだしてきた。
 言葉にすると、その気持ちがどんどん胸の中で膨らんでいき、どうしようもなくなってしまった。
 スマホから連作先が消えた今、彼女に連絡を取る手段はない。
 菅原も岡部も、琴音の連絡先を知っているはずがない。
 だれか彼女と繋がっていた人……。俺は流れ出る涙をそのままに、ぐるぐると頭を回転させた。
 そして、ひとりの名前が脳内に浮かびあがる。
 ……村主だ。
 村主なら、岡部と菅原とも繋がっているはずだ。
 そして、村主から琴音の連絡先を聞き出せるかもしれない。
 そう思った俺は、とっさにスマホを取り出して、岡部に電話をかけた。
 ワンコールで電話は繋がり、岡部の不機嫌そうな声が聞こえる。
『ちょっと、この時期に電話とか、面接の合否の連絡かと思うじゃん』
「岡部、村主の連絡先教えて」
『え……? もしかして、思い出したの……』
 俺の真剣な声に、一瞬ですべてを悟ったのか、岡部は焦ったように言葉を続ける。
『待って、すぐ送る。でも村主、私たちが連絡しても反応来なくなっちゃってたから、返ってくるかどうかは微妙だけど……』
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