何度忘れても、きみの春はここにある。
第二章
近づいていく
side瀬名類
図書室で焼きマシュマロ食って、屋上で紙飛行機飛ばして、いつもつるんでる奴らに、頭打っておかしくなったと言われても仕方ない。
マシュマロはバカみたいに甘くて、ひとつ食べるのが精いっぱいだった。
紙飛行機を作って飛ばしたのは、たまたま先週家に遊びにきた叔母の息子が、楽しそうに折り紙で遊んでいたから。
自分もそんな幼少期がもしあったとしたら、忘れた大切な記憶を取り戻せるきっかけになるかもしれないと思った。
だけどそもそも、親と遊んだことすらまともになかったのかもしれない。
俺の幼少期の記憶はすごく曖昧で、雪が降る日の朝の空みたいに、もやもやとしている。
「類(るい)、今日は遅くなるなよ」
しゃがれた声が背中から聞こえて、俺は曖昧にその言葉にうなずく。
靴紐を玄関で結びながら、俺は真うしろにいる祖父の怒りの気配を感じ取って、軽く振り向いた。
灰色の髪の毛に眼鏡姿の彼は、まっすぐ俺を見つめている。
「受験が終わったからと言って、遊びばかりで入学に支障をきたすようなことをするなよ」
「分かってるよ」
「お前は人と違う。だからその分、どんな人間と付き合っていくのか、ちゃんと見極めなさい」
人とは違う……いつもの決まり文句だ。
俺は飽き飽きしながら聞き流し、重厚なドアに手をかけて家を出た。
祖父は、心配で仕方ないんだろう。
俺が、危険な人と付き合って、自分の娘と同じように危険な人物になっていくことが。
「さっむ……」
卒業まであと二ヶ月だ。
吐いた白い息の行く末を見つめながら、俺は断片的に残る記憶を呼び戻してしまった。
放火事件後、この家は警察や記者に囲まれて、祖父は実の娘がいったいどんな人間だったのか、説明を求められていた。
まさか、自分の娘が一家心中をするために放火したなんて……信じられなかっただろう。
いつもふてぶてしい祖父の背中は丸くなり、『申し訳ない、申し訳ない』と弱々しい声をあげるばかりだった。
俺の肩を抱きながら、『この子の人生は、私が死ぬまでしっかり責任取ります』と、そんなことも言っていた。
俺はあのとき、心ここにあらずで、どうして祖父がこんな見ず知らずの人たちに謝っているのか、分からないでいた。
「あ……、なんだこれ」
手が凍えるので、コートのポケットの中に手を突っ込むと、カサッと中で何かを見つけた。