何度忘れても、きみの春はここにある。
 西花園駅なんて、古びた遊園地しかない駅だ。まさか遊園地で思い出作りをするつもりなんだろうか。
 ……さっき、瀬名先輩の友人らしき人達に絡まれたけれど、あらためて瀬名先輩が私なんかに構う理由が分からなくなってしまった。瀬名先輩の友人たちが、私の存在を不信に思うのは仕方ない。
 でも、瀬名先輩はどことなく、あの人たちと一緒にいても楽しそうじゃなかった。
 瀬名先輩はいつも、ここは自分の場所ではないような、所在なさげな顔をしている。
 そんなことをぼんやり思っていると、ふとスマホがポケットの中で震えた。母親からのメッセージだ。
『悪いけど、今日の夕飯は買って食べてね』
 私はテキトーなスタンプを押して、ちょうど目の前に合ったコンビニに入ろうとした。
 が、運悪くコンビニの前には派手な高校生が三人ほどたむろしている。しかも制服はうちの高校だ。
 どうにも今日は絡まれやすい日なので、嫌な予感を抱えたまま、スマホをぎゅっと握りしめて入店しようとした。
 そのとき、派手な高校生のうちの誰かが、財布から小銭を落としてしまった。
 チャリーンという音が足元まで近づき、私はとっさにそれを拾いあげてしまう。
「あ、サンキュー」
「い、いえ……」
 目を合わさずにさっとお金を渡そうとすると、落とした本人である派手な女子は、私の顔をじっと見つめている。そして、嫌そうな声でつぶやいた。
「桜木じゃん。陰気なオーラ出すぎ」
 声を聞いて思わず顔をあげると、そこには不機嫌な顔をした村主さんが立っていた。
 相変わらずきれいな茶髪を掻きあげて、彼女は眉間のしわを寄せている。
 それから、私の腕をがしっと掴んで、「ちょっと話そう」と言ってきた。
「えっ、話すって何を……」
「いいから」

 彼女は友人たちに別れを告げると、ぐいぐい腕を引っ張って、コンビニの近くにあるファミレスへと向かっていく。
 不安な気持ちに駆られたまま、村主さんはファミレスへと入り、店員さんに慣れた様子で案内をお願いする。
 平日の夜だから、店内には仕事終わりの会社員や、部活帰りの学生が多い。
 窓際の席に案内されると、村主さんはどかっと茶色いソファ席に座り、メニュー表を広げる。
「私たらこパスタ。アンタは?」
「えっ、あ、じゃあ、チーズハンバーグで……」
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