何度忘れても、きみの春はここにある。
「興味ないからか、逆に勉強はなぜかできるけど。覚えておかなきゃって思った瞬間、忘れてるのかな。まあ皮肉にもいつも瀬名先輩の周りに集まってる私達が、忘れられたことはないけど」
「覚えておかなきゃって思った瞬間……」
「でもさ、忘れられたらそれが愛されてるってことなんて、超ドラマチックじゃない?」
 村主さんは、一瞬目を輝かせながら私に同意を求めてきた。
 設定だけ聞いたらたしかにどこかの映画のようだけど……。
 返す言葉に困っていると、村主さんのスマホが連続で何度も震えた。
「あ、彼氏だー」
「えっ!? 瀬名先輩のこと好きなんじゃ」
 思わず反射的に突っ込んでしまうと、村主さんは「つまんないこと聞くな」と低い声かつ早口で答えた。
「瀬名先輩は本当に好きな人。だって絶対私のこと好きにならないから」
「はあ……」
 理解できないままうなずく私に、村主さんは説明を続ける。
「で、彼氏はただ私のことを好きでいてくれる人のこと。存在意義が違うから別々で必要なの」
「好きな人と、好きでいてくれる人は違う役割……」
「好きな人はひとりでいいの。好きでいてくれる人は、多ければ多いほど効果大」
「それってどんな効果が……」
「承認欲求」
 そう即答する彼女は、すがすがしいほどだった。
 私は自分の知らない考えにただただ感心するばかりで、返す言葉が出てこない。
 誰かに認められることが、村主さんにとっては一番大切なことなのだろう。
 村主さんは器用に片手でスマホをいじりながら、次々にメッセージを返していく。
「私、自分でも分かってるけど、超メンヘラだから」
 あまりリアルでは耳慣れない言葉に、私はどんな顔をしていいのか分からない。
 村主さんは何かのスイッチが入ったかのように、自分を語る。
「ちょっとでも不安な気持ちになりたくないの。だけど、瀬名先輩は私のことを不安にさせるから好きなの」
「村主さんにとって、気持ちが不安定な状態が恋ってこと……?」
「別にそうじゃない。でも、いつも私が好きになる人は私を好きになってくれないだけ」
 まさかそんなことまで大っぴらに、私なんかに話してくれると思わなくて、何か言葉を返さなくてはいけない気持ちになった。
 村主さんのこと、派手で怖いと思っていたけど、全然そうじゃない。
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