何度忘れても、きみの春はここにある。
 想像以上に……私と同じように自分に自信がない人なんだ。私とは見た目も性格も正反対なのに。
 なんだか親近感がわきかけたそのとき、村主さんは突然鬼のような形相になった。
「でも、瀬名先輩が好きなのは本当だから。記憶のリハビリとかよく分かんないけど、あんま調子乗んなよ」
「あ、はい……」
 情緒が不安定すぎる。
 ゆるみかけた気持ちを引き締めて、私はようやくハンバーグを口にした。……味がしない。
 村主さんも同じようにパスタを頬張り、ぽちぽちと高速でメッセージを返していく。
 そのメッセージを受け取った男性たちを、村主さんはきっと信用していないんだろう。
 ただ、自分のことを認めてくれる人を常に確保しておきたいため。
 ……それが安心することは、なんだか少しわかる。
 人間誰しも、自分を受け入れてもらえる場所を探しているから。
 それをメンヘラと一言で片づけることは、なんだか少し違う気がするけれど、私はそれを伝えられずにいた。
「……瀬名先輩は、私と一緒なんだ」
 ひととおりメッセージを返し終えたのか、村主さんはぽつりとそう呟いた。
「当たり前に普通の幸せ手に入れられる奴なんて、つまんない。家族同士仲いい奴とか、部活バカみたいに真剣になってる奴とか。そういう奴見てると、勝手に煽られてる気分になって、ムカつくんだよ」
「……」
「瀬名先輩は、私と一緒で普通の幸せを知らないから、安心する。きっと先輩も、私と同じ位置にいる」
 そのとき、ふと瀬名先輩が言っていた言葉を思い出した。
『お前とだから、わざとバカな子供っぽいことしてんだよ』と、あの日屋上でつぶやいていた。
 あのときは意味が分からなかったけれど、瀬名先輩は“普通”の思い出をただ作りたいだけだったのかな。
 瀬名先輩は、普通じゃないことが呪いにみたいになっているのかな。……もしかしたら村主さんも、同じように。
 普通がなんなのかなんて、私には到底分からないけれど。
「私からしたら……村主さんも十分学校を楽しんでる普通の女の子に見える」
 ぽつりとこぼすようにつぶやくと、村主さんは一瞬驚いたような表情をした。
 きっと、村主さんは村主さんしか知ることのできない孤独を持っている。
 それを分かっているから、余計なことは言いたくなかったのに、つい言葉が出てしまった。
 彼女はきキッと私を睨みつけ、言い返す。
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