何度忘れても、きみの春はここにある。
 そのたびに瀬名先輩は、自分のことを嫌いになっていたかもしれない。
 どうしてだろう。こんなのただの妄想なのに、胸が切ない。
 きっと、自分を好きでいてくれる人っていうのは、自分を信じてくれる人って意味だ。
 そう思うと、私は今、この場所を動けないよ。
 だって私も、ほしい。自分を信じてくれる人。
 永遠じゃなくていい。
 そのときだけでも自分を信じてくれる人がいたら、何かがちょっと変わる気がするから。

「桜木」
 少し焦ったような、低い声が聞こえて、私はゆっくり目を開けた。
 いったいどれだけ時間が経っていただろう。
 寒い中棒立ちしていたせいで、足がすぐに動かない。
 私はゆっくりと顔だけ上げて、私の名前を呼んだ人を見つめた。
 そこには息を切らしている瀬名先輩がいて、瀬名先輩のうしろにある大きな時計は、待ち合わせの時刻から一時間半過ぎた時刻を表示していた。
 瀬名先輩は、かける言葉を探しながら、私のことを見つめている。
 私は、いろんな文句が頭に浮かんだけれど、さっき勝手に妄想していた「友人たちと待ち合わせ場所で出会えなかった瀬名先輩」を救えた気がして、なぜかほっとしていた。
 だから、こんな言葉しか出てこなかったんだ。
「よかった……。会えましたね」
 言葉とともに、白い息が視界を遮った。
 自分の吐息で、そのときの瀬名先輩の顔が、よく見えなかった。
 けれど、気づいたら私は、なぜか彼の腕の中にいた。
 冷えて赤くなった手を強引に引かれ、私は瀬名先輩の胸にぎゅっと後頭部ごと手で押さえつけられている。
 彼の心臓の音が、信じられないくらい近くで聞こえて、私はようやく今の状況を理解した。
「せ、瀬名先輩……?」
 瀬名先輩は、動揺した私を抱きしめたまま、聞いたことないくらい震えた声でつぶやく。
「お前、バカじゃん……。意味分かんね……」
 言葉とは裏腹に、彼は私を抱きしめる力を強める。
 周りの人の視線が刺さる。ただでさえ目立つ人なのに。
 注目を集められることが大の苦手な私は、今すぐここから逃げ出したい衝動に駆られた。
 だけど、私を抱きしめる瀬名先輩の手が少し震えていることに気づいて、胸が苦しくなって、なぜか動けない。
 ……動けないよ、先輩。
「瀬名先輩……」
「なんだよ」
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