何度忘れても、きみの春はここにある。
 すごくドキドキしているけれど、村主さんのことが再び頭に過ぎって、私は思わず瀬名先輩から離れた。
 ……そのときだった。
 パシャッという音が教室の外から響いて、私と瀬名先輩はすぐにシャッター音がした方角を向く。
 するとそこには、スマホを持った女生徒と男子生徒と……村主さんがいた。
「岡部、菅原……と村主。お前ら何してんだよ」
 呆れた様子で瀬名先輩は彼らに近づくと、スマホをすぐに取り上げた。
 岡部さんという、この前絡んできたショートボブの先輩が、不服そうに口を尖らせる。
「あー! ちょっと返してよ。ちょうど熱愛シーン激写寸前だったのに」
「ふざけんな、消すぞ。あとなんでここにいるんだよ」
「後つけてたんだよ。最近放課後の付き合い悪いから」
 瀬名先輩は菅原さんと岡部さんのスマホをいじると、写真を削除していた。
 私は、茫然自失としたままどうしようもできなくて、その場に立ち尽くす。
 村主さんと目が合うと、喉の奥がきゅっと締まった。
 ……彼女がとっても、傷ついた顔をしていたから。
 ズキンと胸が傷んで、私は思わず胸を押さえる。
 違うよ、村主さん……今のは。
 今のは……たぶん瀬名先輩の気まぐれで、たいした意味はないよ。
 言葉にしたいけれど、どんな言い方が正しいのかまったく分からない。
 村主さんになんて言われるのかびくびくしながら目を離せずにいると、彼女は何かを言いかけて、でもすぐに口をつぐんだ。
 そして、ぽろっと片目から涙を流したんだ。
 ――それを見た瞬間、信じられないくらい心臓がズキンズキンと音を立てて軋んだ。
 村主さんの涙を見た岡部さんは、彼女の背中をバシバシと叩いて笑った。
「ちょっと菅原、村主泣いてんだけど。マジメンヘラ発動しすぎ」
「え、マジだ。どうした、村主ちゃん。病むの早すぎな」
 ……どうしてだ。どうして、私が彼女たちの言葉に傷ついているの。
 それは、昔私が言われた言葉だから?
 過去と今を重ねて同調しているだけ?
 ファミレスでの、彼女との会話がふとよみがえる。
『好きな人はひとりでいいの。好きでいてくれる人は、多ければ多いほど効果大』
『それってどんな効果が……』
『承認欲求』
 あのとき、村主さんはすごく寂しい目をしていた。
 私はあのとき、ちゃんと伝えたいことがあったんだ。
< 50 / 135 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop