何度忘れても、きみの春はここにある。
「何それ……、優しいなんて、瀬名先輩じゃないみたい。誰の影響で、そんな変わったの」
 村主さんは、どんっと、瀬名先輩の胸に拳を当てる。
 笑いながら、何度も何度も涙をこぼす。
「でも、好きな人に優しくされるって、こんなにうれしいんだ……。私今、フラれたのにね……変なの」
 第三音楽室に、村主さんの鼻をすする音が響く。
 私は、かける言葉が見つからないまま、心の中で願った。
 どうか、彼女が自身で縛りつけてしまっているすべての鎖が、優しく溶けていきますように。
 彼女の心に刺さったすべての棘が、いつか丸くなって消えていきますように。
 何度も何度も、心の中でバカみたいに、唱えた。
「瀬名先輩、ちゃんと返事くれて、ありがとう……」
 それは、ピアノ線まで振動させるかのような、震えた声だった。
 その一言で、村主さんの中の恋心に終止符が打たれたのかと思うと、切なくて胸が張り裂けそうになる。
 瀬名先輩は相変わらず無表情だったけど、村主さんが泣き止むまで、一歩もそこから動かなかったんだ。

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