心を ほどいて  ~コーディネーター麻里絵

1日 空けて バイトに出た私を

あゆみさんは 優しく迎えてくれた。

「麻里絵ちゃん 大丈夫?キツくなったら すぐに休んでいいからね。」

「ありがとうございます。でも もう大丈夫です。ホント 心配かけました。」

無理して笑う私に あゆみさんは 頷いてくれた。


バイトが終わる時間。

更衣室で 着替えていると

「麻里絵ちゃん。これから ちょっと時間ある?」

あゆみさんに聞かれて。

「はい。いくらでも。」

と答えた私。


裏口に待っていた 栄太さんと 合流して。

私達は 別のファミレスに 腰を下ろす。


「俺 祐一に会って 問い詰めたんだ。あんないい加減な辞め方 いくらバイトでも 許さないって。祐一 ずっと謝っていて。俺が 理由を聞くまで 帰さないってわかって。やっと 本当のこと 話したよ。」

私は 栄太さんの言葉を 瞬きもしないで 聞いていた。

「祐一 麻里絵ちゃんの友達と 付き合うらしいよ。」

「えっ!誰?」

やっと 私が出した声は 悲鳴のようだった。


「名前は 聞かなかったけど。麻里絵ちゃんが 田舎に帰った日 祐一のバイトが終わるのを 店の外で 待っていたらしい。それで 祐一を捕まえて。麻里絵ちゃんのことで 相談があるって言って。居酒屋で 飲んだらしい。」

私は 栄太さんの話しを 聞きながら 

その子が誰か そればかり 気になっていた。


「その子は 麻里絵ちゃんは すごい旧家の娘で 田舎に 親の決めた許婚がいるって 言ったらしいけど。嘘だろう?」

私は 大きく頷く。

「それで。祐一のことは 大学時代の思い出作りに 付き合っているとか。今 帰省しているのも その許婚に 会うためだとか。色々 祐一に 吹き込んだらしい。」

「そんなの。全部 嘘だよ。何で 祐一君 そんな話し 信じたの?」

「祐一も 信じていたわけでは ないらしいけど。そのうち その子 酔いつぶれて。どこに住んでいるか わからないから。仕方なしに 祐一のアパートに 連れて来たんだって。」

そこまで聞いて 私は 大きく首を振る。

もう 聞きたくない。

聞かなくても わかるから。


「その子が 苦しいとか 暑いとか言うから 服を脱がして。そのうち 寒いから 温めてとか言われて。それで そのまま…」

「もういいです。」

私は 絞り出すように 栄太さんに言う。


「俺 麻里絵ちゃんと ちゃんと話した方が いいって言ったんだ。でも 祐一 麻里絵ちゃんを 裏切ったことは 変わらないって言って。それに その女の子が 麻里絵ちゃんと別れて 付き合ってくれないなら 死ぬとか言って。祐一のアパートで ハサミで手首を 切ったらしい。」


「誰?その子…」


私の声は 掠れて 老人のようだった。


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