心を ほどいて ~コーディネーター麻里絵
「もうすぐ 花火大会だね。麻里絵ちゃん 行く?」
ホテルの上層階の レストラン。
窓際の席からは 街の灯りが 綺麗に見える。
「ううん。人混みは 苦手だから。それに 花火喜ぶ 年でもないし。」
高級な雰囲気は 少し 居心地が悪い。
恋人でもない 私なのに。
「年は 関係ないでしょう。俺のお袋なんて いまだに 花火 見に行くよ。」
「そうなの?田辺さんのお母さんって どんな人?」
「元気で チャラチャラしてる。もう 60才 過ぎているのに。」
「チャラチャラ?」
私は ケラケラ笑ってしまう。
「麻里絵ちゃん。やっと笑った。」
田辺さんも 嬉しそうな 笑顔を見せる。
「えっ。私 事務所でも 笑っていたわ。」
不審気に 私が言うと
「そうなんだけど。何か 辛そうだったから。」
敏感な 田辺さんが 怖くなって。
私は 探るような目で 田辺さんを見る。
「湯沢さんのせいなら いいんだけど。違うだろ?」
語尾を上げた 田辺さんに 私は 微かに 頷く。
「私 夏が 苦手なの。」
田辺さんの 熱い目に 私は やっぱり 竦んでしまう。
まただ…
私の心が 警笛を鳴らす。
この人に 縋ったら また傷付くから。
これ以上 心を開いたら ダメって。
苦笑する私の 小さなため息を 田辺さんは 見逃さない。
「ねぇ。麻里絵ちゃん。話してみない?俺 何もしないから。油断していいよ。」
「そうね…」
今なら ホテルの雰囲気のせいに できる。
話す事ができたら 私は 解放されるかも。
辛くて。
思い出すことさえ 逃げていたけど…