心を ほどいて ~コーディネーター麻里絵
その日 田辺さんは
私の過去に 一言も 触れないまま。
1時間くらい 車を走らせて
駅前パーキンクに 戻った。
「色々 ありがとうございました。」
丁寧に 頭を下げる私に 田辺さんは
カーオーディオから CDを抜き取り
「はい。」と 差し出す。
受け取ることを 躊躇って 田辺さんを見る。
「時々 聞いて 俺を 思い出すんだよ?」
「いいの?」
「どうぞ。」
私は 微笑んで CDを受け取る。
「聞きながら 帰ろう。」
「泣き出すと 運転 危ないから。気をつけて。」
笑いながら言う 田辺さんを 私は 甘く睨む。
「今日のお礼に 今度は 私に 何か ご馳走させて。」
私から 誰かを誘うなんて はじめてのこと。
言ってから 自分で 驚いたけど。
「いいね。麻里絵ちゃんに ご馳走してもらえるなら たこ焼きでも 嬉しいよ。」
田辺さんは 他愛ない笑顔を 向けてくれる。
踏み出した一歩は すごく 大きかった。