心を ほどいて ~コーディネーター麻里絵
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「お疲れ様です。」
今年最後の 純也の支店での 打ち合わせ。
一年のお礼に 焼き菓子を買って
私は 事務所のドアを 開ける。
店長と 純也と 珍しく 藤崎さんもいる。
「今年も 色々 お世話になりました。」
私は 笑顔で 菓子折を 店長に差し出す。
「麻里絵ちゃん。そんな 気を使うなよ。みんなも 麻里絵ちゃんに 助けてもらっているんだから。」
「ほんの気持ちです。来年も よろしくお願いします。」
私は 軽く首を振って 頭を下げた。
笑顔で 店長と私を 見ていた純也。
「あっ そうだ。午前中 無事 湯沢さんの 引渡し 終わったよ。湯沢さん すごく喜んでいて。まりえに よろしくって。」
私が ハッとして 純也を見るより早く
「まりえ…?」
店長が 声を上げる。
しまった、という 純也の顔は 真っ赤で。
「えーっ。麻里絵さんの彼って もしかして 田辺さん?」
薫ちゃんの 叫び声に 私と純也は 困って見つめ合う。
「いや あの。そろそろ 報告するつもりだったから。いや。みんなに 気を使わせても 悪いし。」
営業マンらしくもなく しどろもどろの純也。
「あっ。私 サンプルの準備しないと。」
モデルルームへの 扉に手をかけると
「逃げたな。」
店長の 明るい声が 背中に響いた。