男心と春の空
かなり明るい茶髪でロング。

こういう人、大学にもよくいる。

全部のパーツが猫目の女に比べて小さかったが、キレイな二重の目だった。

でもケバい。

その子が困った顔をしつつも紺色のカバンの中から赤い包みを出した。

そこで初めて「おっ」と胸が踊る。

今年ちゃんと貰えた最初で最後のチョコになるかもしれない。

リボンの下にカードも挟まっている。

それをゆっくり俺に差し出してきた。

「袋なくてごめんなさい。」

彼女は意外にもそんな一言を添えて笑う。

思いの外、それがかわいく心に響いた。

「いや、全然いいですよ。ありがとうございます。」

そんなことを言うとなぜか猫目の女がニカッと笑った。

お前に言ってない。

俺は静かに受け取り、会釈を軽くして足早に階段に向かった。

すぐに後ろから猫目の女の「すごいよぉ、やったじゃぁん。すごぉい。」という声がした。

馬鹿そうな声だ。

二週間前まではアキナのこと、三十分前までは矢野英子のこと、そして今はさっきの子のことを考えている俺を自分でもどうかと思う。

カバンの中の赤い包みを見て、あんなギャルが俺みたいな男をかっこいいと思うのが不思議だった。

カフェに来てたっけ?

思い出せない。

地下鉄を降りて商店街を歩いている間に、例の挟まっていたカードを取り出す。

十センチの長方形の真ん中に、意外にもキレイな文字で「いつもバイトお疲れ様です。トリュフを作りました。よかったら食べてください。平良弥生」というメッセージと、連絡先が書かれていた。

かわいいなあ。

つい口元が歪んだ。
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