男心と春の空
家に戻るとテーブルいっぱいに盛り上がったたくさんの包みにビックリした。

持ち主はリビングにはいない。
きっと風呂。

ざっと五十くらいはある。

俺は唯一貰った赤い包みをカバンから取り出す。
またカードを見た。

平良弥生の綺麗な文字の並びに、「返事は礼儀でするべき」という自分と「これがきっかけで何かあるかもしれない」という自分がいる。

スマホを取り出す。

なぜか樋川を求めていた。

電話をかけるとすぐ出てくれた。

「どしたの?」

眠そうな声だ。

「大学の近くの高校で、制服が紺のブレザーで、スカートがベージュのチェックって」
「東高校じゃん。なになに、なんで?チョコ?チョコもらったの?」
「もらった。ケバい女子高生からもらった。」

俺は興奮気味にまた手に持ったカードに目をやる。

平良弥生。

「バカ高じゃん。よかったねえ、はまちゃん。」

樋川が皮肉たっぷりに言う。

たしかに東高校はバカで有名である。
高校時代、一度も合コン相手にしたこともない。

別世界の対象だった。

「どうしよう。お礼言った方がいいよね。」
「何言ってんの。高校ん時チョコもらっても食いすらしなかったじゃん。」

たしかに俺は高校時代、バレンタインデーに東高の子からチョコをもらっても友達に食わせていた。

お礼なんてしたことがない。

でも。

「かわいかったの?その子。」

黙り込んだ俺を不思議に思ったのか、樋川がニヤニヤしたような調子で言ってきた。
俺は素直に答える。

「かわいかった。」

カードにまた目を落とす。

綺麗な文字。

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