男心と春の空
便箋を開く。
そこに書かれていたのは次のような文章だった。

「久しぶり。元気?チョコ作ったから食べてね。矢野英子」

矢野英子?

矢野英子って俺の知ってる矢野英子?

見てはいけないようなものを見てしまった。

一気に後悔が押し寄せる。

どういうこと?

事態が飲み込めずにいた。

手の中のスマホが振動してやっとハッとする。

手紙もすべて元通り、何事もなかったかのように戻し、そして袋を一番分かりやすいところに置いた。

翌日、部屋から出ると、偶然雄介も部屋から出てきたところだった。

「今日、雨かもしれないって。」

何も知らない雄介はそれだけ言ってリビングへ向かう。

悔しいけど渋くてかっこよかった。

なぜか寝癖すらついてないし、ニキビも全然ないし、体も引き締まってる。
すごく細く見えるけど、実は筋肉がある厚みのある体なんだ。

女も惚れるよな。
歩く後ろ姿を見て改めてそう思った。

嫌なことにバイトで朝から矢野英子と一緒だ。

一見いつもと変わりない。
いつものまとめ髪。

ここで思ったけど、髪の長い女が好きだ。

俺はつい矢野英子のうなじを見ていた。

美人すぎる。

だけどなんで?
本当にあなたですか?
同姓同名?

まったく分からない。

俺はしばらく注意深く二人の様子を伺っていたけど、特別何もないように日は過ぎていった。

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