男心と春の空
弥生ちゃんはたまにうちのマンションに出入りするようになっていた。

俺は前までバイト三昧だったけど、今は意識して週に一日は休みを入れて弥生ちゃんと会うようにしている。

「私もバイトしようかな。」

俺のベッドの上で、弥生ちゃんは後ろから俺に抱かれるような形で座っていた。

俺は無意識に弥生ちゃんの長い髪をクルクル触る。

弥生ちゃんは俺の腕をモミモミしながら頭を俺の肩に寄せてくる。

先週もこの部屋で一緒に遊んでキスしたばかりだった。

それ以上の進展はない。

俺は「大切にする」ってそういうことだと思ってる。

まだ付き合って一ヶ月も経ってないし。

正直初めて付き合ったばかりで、どういうことをするのか分かってなかった。

「弥生ちゃん、ちゃんと働けんのかなあ。」

俺がそう言って腕の中の弥生ちゃんを見ると、弥生ちゃんも見返してきた。

「できるよお。」

薄々分かってきたんだけど、弥生ちゃん家は結構裕福な家庭だから、バイトをする必要はないらしい。

でも、俺と会えない日が寂しいとかなんとか。

できるだけ常に一緒にいたいタイプだ。

電話も毎日しているし、授業中も常に連絡取り合っている。

弥生ちゃんは女子大だけど、俺が共学なのが心配らしい。

バイト先に美人がいる(たぶん矢野英子のこと)のも心配なのはなんとなく伝わってくる。

ちなみに、もうひとつの家庭教師のバイトは、受け持ってた子が無事第一志望校に受かったタイミングで辞めた。

というより、弥生ちゃんと会うために辞めないといけなくなった。

今日もそれからしばらくキスして、なんとなく分からないなりに身体を触ったりして終わらせた。

七時過ぎに歩いて駅まで送りにいく。

弥生ちゃんは、なかなか改札を通ろうとしない。

しばらく改札近くで俺の右手を両手でもてあそぶ。

俺の親指をクルクル回したり、マッサージしてきたり。

その間に何本か電車を見送って、そろそろ帰らないと遅くなっちゃうよ、明日一コマからある日でしょ、と俺が言って渋々手を離す具合いだった。

なんとか弥生ちゃんを見送ると、俺はやっと駅から出ることができる。
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