男心と春の空
二人の過去
ある日のバイト中のことだった。

突然店長が、俺と矢野英子に向かって言ってきた。

「浜田くんと矢野さん、匂いが一緒じゃない?」

匂い・・・?

矢野英子も俺も自分の着てる服をクンクンする。

「ちょっと手を振ってみて。」

店長の指示に、二人揃って大きく手を振ってみた。

「ほら、同じ。」

矢野英子と俺は「え」と少し驚いて顔を見合わせる。

矢野英子が俺の胸元に近づいてきてクンクンと匂いを嗅いできた。

「もしかしたら、柔軟剤一緒かも。」
「柔軟剤?」
「柔軟剤、何使ってんの?」

少し普段使ってる洗剤を思い出そうとするけど、全然イメージがない。

「いや、いつも兄が買ってくるから自分は全然分かんないです。」

と言いながら、少し引っ掛かりを感じた。

高松雄介と矢野英子が選ぶ柔軟剤が一緒?

バレンタインのチョコが思い出される。

あれ?

「紺色のやつじゃない?」

矢野英子は全く俺の気持ちを無視して目を覗き込んできた。

「ああ、確か。紺だったような。」

俺は適当に返す。

「私、この匂い好きなんだー。そっか、お兄さんが選んでるんだ。ちょっと高いけど、これいいよね。」

やっと矢野英子が俺から離れた。

やっぱり、二人には何かある?

「一緒に住んでるって勘違いされちゃうね。」

矢野英子がイタズラに笑う。

「いやいや」と受け流しながら、また俺の気持ちはモヤモヤする。

同じ柔軟剤って単なる偶然か?

ダメだ、柔軟剤がどのくらい種類あるのかさっぱり分からない。

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