男心と春の空
15分ほど過ぎた頃。
俺のスマホのバイブが尻のポケットの中で鳴る。

鳴り続ける。

おそらく弥生ちゃんからのいつもの電話だ。

矢野英子は全然気付いてない。

「海くんって彼女いるの。」
「ああ、はい。います。」
「あ、そうなんだ。」

矢野英子は軽く驚いた笑顔をした。

「同じ大学の子?」
「いや、他の女子大に行ってる子で。」

まだ尻のポケット内で鳴り続けるバイブ。

「なんで知り合ったの?合コン?」
「なんか、あのー、バレンタインデーに突然チョコ渡されました。」
「え?全然知らない子から?」
「はい。」

矢野英子は「やるねー」と言いながらお酒を口に含む。

やっとバイブが止まった。

ああ、怒らせただろうか。

樋川と遊んでたことにしよう。

かなりの罪悪感。

「矢野さんは。いるんですか、誰か。」

矢野英子は少し俺を見たあと、「いないよー」と答えてまた酒を飲んだ。

「あ、そうなんですか。」

俺も反応に少し困り、目の前のナッツを口に入れる。

「1年前に別れてから、全然、そういうのない。」

矢野英子は小さな声で呟いて、また酒を飲んだ。
俺は少し心がチクリとした。

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