男心と春の空
俺は視線に注意しながら、矢野英子の背中に腕を回して抱き上げようとした。

「ゆうすけ。」

ん?

矢野英子の声。

「ゆうすけ。」

矢野英子が俺に腕を回してくる。

「矢野さん、俺、俺、」

雄介じゃない、と言おうとしたところで、矢野英子に抱きつかれた。

「ちょっ・・・矢野さん?矢野さん?」

俺は少し優しく矢野英子の腕を叩く。

「好きだよ、雄介。」

ああ、俺、雄介じゃない。

そう思いながらも、そんな矢野英子を無下にすることもできず、俺は立ち尽くす。

矢野英子、高松雄介が今もまだ好きなんだ。

矢野英子がすっかり寝入ったのか、全体重が俺に寄っかかってきた。

俺はそっとベッドの上に矢野英子を寝かせる。

そして静かに部屋を出た。
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