男心と春の空
俺は少し思考を巡らせて、落ち着いて答える。

「いや、ストッキングは脱がせましたけど、パジャマまでは・・・」

バッチリと矢野英子と目が合う。

何か俺、言ってしまったか。

矢野英子の青ざめた表情。

「ストッキング・・・海くんが脱がせてくれたの・・・うーわ・・・」

すっかり落ち込んだように壁にもたれかかった。

「スカートの中は見てないです。」
「見たでしょ。」
「いや。」

あの時、見てしまったら負けだと思って絶対に顔を上げなかったのは確かだ。

俺は首をゆっくり左右に振った。

「もういいや。」

矢野英子は諦めたようにキッチンの方へ消えていった。

高松雄介のことは全然言えなかった。

矢野英子はまだ高松雄介のことが好きで、そいつと俺は今実際一緒に住んでいる。

なんてことを知ったら、どうするんだろう。

俺は、ストッキングの件で留めておくのが無難だと判断した。

誰にも心の中に留めておきたい秘密はあるからだ。
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