男心と春の空
今日はテスト前でバイトが休みだった。

文学の授業を終えるとそのまま俺だけ図書館に向かう。
樋川も野山もこの後授業を入れてるからだ。

図書館へは一旦講義棟から出る。

最悪なことに雨が降っている。
まあ、傘があるからいいんだけど、全然好きじゃない。

傘を差した時だった。

「もう帰んの」

すぐ後ろでアキナの声がした。
ハッとして振り返る。

「ううん」

俺は少し驚きながら首を横に振る。

「どこ行くの」

アキナは俺の横についた。

「図書館行って勉強しようと思って」

俺が言うと、「図書館?」とアキナは目を輝かせた。

「私も行く」
「えっ」
「なんで、ダメ?」

丸い目で俺を見てくる。

「いや、いいけど」
「傘なくてさー、雨降ってるし困ってたんだ」

傘か。
俺はサッとアキナも入るように傘をさす。

「ごめんねー」

そう言いながら悪びれる様子もない。

図書館までのちょっとした道を歩く。

「樋川あいつ面白いだろ」

俺がそう口を開くと、アキナは「うん」と返した。

「すごくいい人」

その響きに、かつて流行った歌の「いい人って言われたって、どうでもいい人みたい」という箇所が脳内を走る。

いい人、ってどうなんだろ。

きっと俺のことも聞かれたら「いい人」と言ってるのかもしれない。

「すごく話も面白いし」

と付け足した。

「うん、あいつは面白いよね」

そうとだけ答える。

図書館につく。

屋根のあるところで傘をバサバサとする。

「アキナも?中入るの?」

俺が聞くとアキナは頷いた。

「勉強したいし。」

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