男心と春の空
その人はツカツカと俺の方に向かってくる。

「何してんの」

酷くかすれた声。
その目は少し涙を浮かべつつも、ナイフのように鋭く俺を睨んでいる。

弥生ちゃんだった。

パニックになった俺は、つい「そっちこそ」と口から漏れてしまった。

「今日からバイト休みだから遊ぼうねってこの間言ったじゃん」

震えながらも力強い声。

全然覚えてない。

すぐ隣のアキナが「違うの、違うの。」と間に入る。

「たまたま、私がここにいる同級生に会いにきててさ、そしたらたまたまここではまちゃんに会っただけ。」

俺は急いで脳みそをフル回転させた。

「そう。ここで会っただけ。」

口に無理やり笑顔を作る。

「じゃあ、私、帰るよ。」

そう雨の中へ飛び出したアキナに、俺はつい「あ、これ。」と自分の傘を差し出していた。

ほとんど無意識の優しさだった。

アキナは笑って言った。

「はまちゃん、ダメだよ。買ってくし。」

俺ってなんでこんなに気が回らないんだろう。
馬鹿か。

アキナは「じゃ」と言って、すぐにまた店内へと戻っていった。

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