男心と春の空
その笑顔に胸がグッと苦しくなる。
よかった、いい方向に転んで。

「おーーうん。必修は大体出るとこ教えられる。」

俺は何でもないような顔で言いながら、ケースからペンを探すフリをした。

「昨日も、傘忘れて良かった。」

「え?」と俺が見上げると、アキナが悪戯っぽく笑ってた。

それは、確信犯だろ。

上手く俺が反応できずにいると、アキナがスマホで時間を見る。

「生協寄ってこうと思ってたんだ。行かなきゃ。」

急ぐように机の上を片付けていく。

「ああ、そうなんだ」

俺はそんなボケた調子で返す。

「じゃね」と軽く俺に手を振って、アキナはパタパタとその場を去って行った。

それが、夏休み前アキナと話した最後だった。

気付くと、テストが終わって長い長い夏休みに突入していた。

いつのまにか梅雨は明けていた。
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