男心と春の空
俺はずっと悪者になるのを避けてた。

「そんなつもりで電話したんじゃなかったんだけどな。」

そう言って弥生ちゃんが少し笑う。

「うん。ごめん。」
「私のこと好きじゃなくなった?」

弥生ちゃんのストレートな返しに戸惑う。
なんて返せばいいんだろう。

また足元のキレイな木漏れ日に目を向ける。

「うん。ごめん。」

小さな声を絞り出すように言った。

沈黙。

「どの人。」

感情を感じ取れない弥生ちゃんの声が響いた。

「え?」
「今はどの人が好きなの。」

こんな場面なのに、ふと樋川の顔が浮かんだ。

いつだったか、「同性愛者だと言えば女の方も納得して別れてくれるよ」なんて言ってたからだ。

だからってここで樋川だとか野山だとかの名前を出す方がリスクだ。

でもバカ正直に言ったとして何のメリットがあるんだろう。

「誰も好きじゃないよ。」

俺は嘘をついた。

夏の終わり。
弥生ちゃんと別れた。
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