男心と春の空
夏休み明け。
大きな講義室の真ん中あたり。
もう席に着いていた樋川。
会うのは久しぶりだ。

「おー。」
「おー。」

なんてことない挨拶だけ。
そこに野山も遅れて合流する。

樋川、俺、野山の順で3人並んで座る。

教授はまだ来ない。

「アキナと付き合った?」

俺は平然を装って、ずっと気になってたことを聞いた。
樋川はコロンコロンとペンを回してから答えた。

「まだだけど。」

その反応に、俺は「おー、そっか。」以外言葉が見当たらない。

「はまちゃんは?」
「なにが?」
「弥生ちゃん。」

俺はその顔を思い出す。
最後の声を思い出す。

「別れたよ。」

樋川より先に野山が「ええ!」と大きく驚いてきた。
その大声に周囲の学生も驚く。
うるせえよ。

「やっぱりアキナちゃんが好きでした、って?」

樋川が皮肉たっぷりに笑って言ってきた。

「そんなんじゃねえよ。」

良心が痛む。

そこで一番前のドアから教授が入ってきた。
自然と話すのを止める。

夏休み明け一発目の講義は全く頭の中に入ってこなかった。
きっと教授は、自分の話したい話をしてるだけで、誰かに興味を持ってもらおうという気持ちがない。

退屈な90分間。
まだ25分もある。

そう思っていた時だった。

樋川と俺のノートの間に置かれた樋川のスマホ画面がパッと明るくなった。

見ちゃいけないって分かってるけど、無意識に目を向けてしまう。

「アキナちゃん」

アキナからの連絡。

そっか、普通に連絡取り合ってんだ。

俺はつい反射的に反対隣の野山に顔を向ける。
なんとなく樋川が俺を気にしてるのは分かった。

お互い講義中で無言だったけど。

アキナもそろそろ樋川のこと好きになってるんだろうか。
そんなに2人で遊んでて、付き合ってるようなもんなのかな。

俺が弥生ちゃんと付き合ってなかったら・・・。

どうにもならないことを、ふと考えてしまう。

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