男心と春の空
アキナの表情が「え?」のまま動かない。

だけどゆっくり視線を伏せられた。

口だけがやっと動く。

「昨日から樋川くんと付き合ってる。」

そう言った顔が俺を向く。
やっと目が合った。

まばたきすると、まつ毛の長さに驚く。
すごく顔が整ってるな、なんてどうでもいいことを考えた。

「遅かったか。」

俺のため息混じりの声。
情けない。

フラフラと立ち上がる。

「うん、遅いよ。」

アキナは俺の目を見ることなく言った。

涙が出るような感じでもない。
そもそも樋川に完敗だったんだから。
かなりリードを許していたレースだった。

「全部忘れて。」

俺はそう呟いて、本棚の迷路に迷い込んだ。
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