男心と春の空
最後の夜
バイトに身が入らない。
だけど、今日は客も少なくて丁度いい。

矢野英子が「なんかあった?」と聞いてくるくらい、顔が死んでいるようだ。

「いや、なんでもないっす。」

俺はそう言った後、深くため息をついた。

俺ってやつは一体何をやってんだろう。

無意味にテーブルを拭く。
誰もまだ座ってないのに。

結局、その後も混み合うことは少なくて、突っ立ってる時間の方がずっと長かった。

クローズと共に、かなり疲れた足取りで矢野英子と控室に向かう。

「暇だったねー。」

そう言って矢野英子が先に控室に入る。
俺は「ですね。」と言って、ドアに背もたれる。

俺、今日失恋したのか。

未だにピンと来てない。

そっか、樋川と昨日から付き合ってるのか。
知らなかった。
樋川、すぐに教えてくれないんだな。  

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