男心と春の空
もう慣れたと言ってもいいような、矢野英子の部屋。

二人で脱ぐスニーカー。

大体座る位置も慣れた。
前回来た時からそんなに変わってない部屋。

二人で乾杯するレモンサワー。

「どうしたの。失恋でもした?」

矢野英子が最初に切り出す。
レモンサワーを勢い良く喉に流し込む。

「彼女と別れて、ずっと好きだった子に告白したんですけど、もう既に俺の親友と付き合ってました。」

俺は今、犬みたいな顔でもしてるんだろうか。

矢野英子が頭を撫でてくる。

至近距離。
なんかフワッといい香りがする。
香水なのか、シャンプーなのか。

「矢野さん。」

矢野英子が「ん?」と俺の目を見つめてくる。

「今、矢野さんと無性にキスしたいです。」

ボロクソ過ぎる本音。
こんなバカみたいなことも、矢野英子になら言える気がした。

「好きでもない人とやるのは虚しいんじゃなかったの?」

そう言って俺の首に回してくる手。

どんだけ顔小さいんだろう。
モデルとかやってたのかな。
めっちゃ美人だもんな。

俺はそんなことを考えながら矢野英子とキスをした。

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