幸せにしたいのは君だけ
「この目も髪も唇も……全部俺のもの」

「……それはちょっと大げさなんじゃ……」

「俺の佳奈への気持ちはこんなものじゃないから。俺がどれだけ佳奈を抱きしめて、自分のものにしたかったと思う?」


色香のこもった声で囁かれて、頬が一気に熱をもつ。


「わ、わかりません……」

「――一生離したくないくらい、だ」


端的に言われた言葉に、頭を上げる。


「え……」

「本気。俺はもうこれから先、絶対に佳奈を手放さないから」


低い声が心にゆっくりと染みこんでいく。

強引な言われ方をしているのに、それが嬉しいだなんておかしいかもしれない。

でもなぜだろう。

視界が滲んでいく。


「本当に……? 私でいいの?」


彼の胸に置いた指が、声が震える。


「佳奈がいい。佳奈だけがほしいんだ――あの焼き鳥屋で会った日から、ずっと」


長い指が私の顎をそっと掬いあげる。

目が合った瞬間、唇を塞がれた。

伝わる温もりに涙が止まらない。


優しい口づけは段々と荒々しく、強くなる。

深いキスは私の心を揺さぶってくる。


この人が本当に好きだ。


「……好き」


ほんの少し唇が離れた時に漏らした声に、彼が瞬きを繰り返す。

妖艶な眼差しに射抜かれて身じろぎすらできなくなる。


「……俺も」


気持ちを伝えるような激しいキスに翻弄される。

そのまま腕のなかに捕らわれて、私はただ彼のなすがままになっていた。
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