幸せにしたいのは君だけ
「大丈夫。人目はないから」

「そういう問題じゃないです!」


この人は自分の立場をわかっているのだろうか。

佐久間グループの御曹司がこんな真似をしていていいのだろうかと心配になってくる。

それと同時に、余裕そうな態度が悔しくもある。

彼の恋愛経験の豊富さを感じてしまう。


「俺は佳奈とだったら誰に噂されても構わないんだけど、嫌われたくはないから」


そう言って圭太さんは私の腰から腕を外して、先ほどのように指を絡めてきた。


「今はこれで我慢しておく」


ニッと口角を上げるその表情が眩しくて、心が追いつかない。


圭太さんが連れてきてくれた庭園は、本当に立派な場所だった。

都会の真ん中とは思えない静謐な空間。

そこだけ空気が澄んでいるように思える。

様々な植物たちがきちんと手入れされていて、特に寒椿が見事に咲き誇っている。


「佳奈、寒くない?」

「大丈夫、です」


むしろ先ほどまでの出来事で身体中が火照っていて、寒さを感じない。


「あっちにベンチがあるから、そこに座ろうか?」


指をさして案内してくれた場所は“管理人室”とプレートが掲げられた小屋のすぐそばだった。

自動販売機もあり、このスペースでは飲食が認められているらしい。
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