幸せにしたいのは君だけ
5.君との出会いは運命 ~圭太~
アメリカ行きの機内の中、ポーン、と音を立ててシートベルト着用サインが消える。

その瞬間、ふうっと息を吐いた。

もうこの行程を何度経験しただろう。

アメリカと日本を行き来するのに、これまでは特になにも感じなかった。

ただ、幼馴染みに頼まれた土産を気に掛けるくらいだ。


それが今はどうだろう。

叶うならば今すぐこの飛行機を降りて、日本に引き返したい。


目を閉じれば、やっと手に入れた可愛い恋人の姿が浮かぶ。


『そんな煮え切らない男性はお断り』


これまで誰ひとりはっきりと口にしなかった言葉を、いとも簡単に口にした彼女。

まさか俺が同じ店内にいるとは思いもしなかったんだろう。

驚愕した表情がすべてを物語っていた。


これまで周囲から幼馴染みとの関係は何度も邪推されてきた。

俺たちの間には恋愛感情が存在しないと、人生で幾度説明してきただろうか。

それこそ澪と先輩の結婚が決まってからも、ずっと伝え続けた。

そのうち説明するのも段々面倒くさくなって適当にあしらってはいたが。


本来なら不快に思うはずの言葉が、彼女が口にするとなぜかちっとも腹立たしくなかった。

揶揄うような言い方ではなく、本気でそう思っているように聞こえたからだろうか。


またか、と放っておくことだってできた。

いつものように素知らぬフリをするか、作り笑顔で対応するのも難しくなかった。
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