幸せにしたいのは君だけ
6.小さな棘と嫉妬
圭太さんは再び、アメリカに戻ってしまった。

正直、遠距離恋愛は今も苦手だ。

だからといって、この恋を手放すなんてできない。


でも、私はまだ迷っている。

今さらだが私は彼の詳しい仕事内容を知らない。

いくらグループ会社とはいえ、関わっている業務内容までは知りえない。

ただ多忙だというのは一緒に過ごしていればわかる。


そして、周囲から聞こえてくる噂からも、その有能さがうかがい知れる。

確か九重に就職したのは、あちらの社長と圭太さんのご両親が友人だったからと噂で聞いた。

だからといって海外赴任が簡単にできるわけではない。

与えられた役割で、期待以上の結果を出してきた彼の有能さあっての話なのだろう。

なんにせよ、私には雲の上の人の話すぎて、理解が追いつかない。


以前、澪さんが副社長との関係に悩んでいた気持ちが、今になって痛いほどわかる。

あまりにも優秀で、仕事もできて、完璧すぎる人の前では自分がとても小さな人間に思えて気後れしてしまう。


千埜には正式に付き合うようになったと報告した。

親友は涙目になりながら喜んでくれた。

ただ、同じ受付業務の早苗ちゃんやほかの同僚にはまだ報告していないので、千埜には口止めをお願いした。


ただでさえ、有名な彼なのだ。

ほかの女性社員に知られて、どういう反応を示されるかと思うと気が気ではない。


心配しすぎだと親友はあっけらかんと言っていたが、やはり気になってしまう。

そのうち話さなくてはと思うのだが、どうしても話を先延ばしにしてしまう自分がいる。
< 112 / 210 >

この作品をシェア

pagetop