幸せにしたいのは君だけ
「でも修行の意味もあったし、圭太さんは行きたかったんでしょう?」

『なに、佳奈。俺が帰国するの嫌なのか?』


茶化すような口調で問われて焦る。


「ち、違うよ。ただびっくりして……すごく嬉しいけど、本当なのかなって。ぬか喜びだったらどうしようって心配してるの」

『ハハッ、大丈夫。この決定は覆らないから。安心していいよ』


やけに自信たっぷりに言い切られる。


「引っ越し先は決まっているの?」

『とりあえず、しばらくは実家に戻るよ。それから家を探すつもり』

「ずっと実家に住まないの?」


圭太さんの実家から九重本社は、通えない距離ではない。

しかも、あれだけ豪華で住み心地のよさそうな家なのだ。


『通勤時間が長くなるし、仕事が長引いた時に不便だからな。佳奈、一緒に住む?』

「えっ?」

『俺と一緒に暮らさないか?』


さらりと天気でも話すかのような口調で誘われる。

いきなりの申し出に瞬きを繰り返す。


今、なんて?


「本気、なの?」

『もちろん。こんなの冗談で言わない』

「あの……でも、私、ずっと実家で暮らしていたから、家事はそんなに得意ではないし……料理だって……」


ああ、もう。

なにを言い訳しているんだろう。

こんな話をしたいわけじゃないのに。


完全に狼狽えてしまっている。
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