幸せにしたいのは君だけ
両親は口うるさくはないが、やや心配性だ。

特に父は私が独り立ちするのになぜか否定的で、婚活に躍起になっていた頃も『結婚を急ぐ必要はない』と再三言っていたくらいだ。

同棲なんて、きっと簡単には許してくれないだろう。


『その反応は普通だろ? 俺が佳奈の両親の立場でもそう思うよ。ついでに言うと、澪の時はそれで結構もめてたから。こういうのはきちんとすべきだ』


突然飛び出した澪さんの話題に、胸が塞ぐ。

でも、その部分には気づかないフリをする。


時折、こんな風にとても自然に澪さんの話をされる。

不快なわけではない。

ただ、その度に、ほんの少し胸が軋む。

まるで抜けない小さな棘がどんどん増えていくように。


ふたりが過ごしてきた長い時間。

それらを考えたら当たり前だとわかっている。

そこを私がとやかく言うわけにはいかないし、言いたくない。


……心の狭い、重い女だと思われてしまう。

澪さんの存在をこの人は絶対に忘れないし、離れることはないのだから。

そこに口を出したら、きっと私たちの関係は壊れてしまう。


「……そう」


今はただ、返事をするだけで精一杯。

あとどれだけの時間が経てば、気にしなくなるだろう。
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