幸せにしたいのは君だけ
今日は、引継ぎの連絡もかねて総務課に足を運んでいた。

受付は早苗ちゃんに任せていた。


「早苗ちゃんお疲れ様、ありがとう」


自席に戻り、後輩に声をかける。

現在は受付周辺にお客様の姿はない。


「いえ、佳奈さんこそ、今日はお疲れじゃないですか? そういえば、先ほど岩瀬さんがお見えになってましたよ」

「……澪さんが?」


澪さんは結婚後も、九重の秘書室に勤務している。

けれど名字が“九重”では副社長や社長に接する時にわかりづらいのではという考えにより、旧姓の“岩瀬”を使用している。


「佳奈さんがご不在なのを残念がっておられました。書類を営業課に届けに来られたみたいです」

「そうなの……」


胸の内に複雑な気持ちが込み上げる。

大好きな先輩に会いたい気分と、不安にかられてしまう自分。


「私、以前に佳奈さんが誰かに似ているって申し上げたの、覚えてます?」

「……そう言えばそんな話をしてたわね」

「さっきわかったんですよ。佳奈さんって岩瀬さんに似てますよね!」


得意げに目を輝かせる後輩に、胡乱な目を向ける。


「なにを言ってるの。似てるわけないでしょ。私は澪さんみたいに癒し系じゃないわよ」

「外見とかじゃないですよ。なんて言うか……口調とか考え方っていうんですか? あとは……ふとした時の仕草ですかね?」
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